脳でことばを聴くしくみ その1
こんにちは 聴覚評論家の なかがわ です。
今日は、脳がことばを処理するしくみについて学んでいきましょう。
それではスタート^o^
耳の中に飛び込んでくる「音」は、声だけでなく周囲の騒音や環境音が混ざっています。しかも声は一人だけとは限りません。
そんな雑駁な「音」のなかから必要な音をピックアップし、聞こえを聴こえに変える。私たちの脳は驚くべき情報処理によってヒトとヒトの聴覚コミュニケーションを成立させます。
音声信号のなかから特定の人の声をピックアップする仕組みは次のような脳内システムが関わっていると考えられています。
- 日本人なら日本語、アメリカ人なら米語、イギリス人なら英語とそれぞれに最適な音韻カテゴリーを乳幼児期に自然に獲得している。音韻カテゴリーとは、日本語ならアイウエオの五十音のような言語ごとの音素のことです。ニューラルネットワーク形成のある時期、乳幼児期、に触れた言語が母語になると考えられています(言語獲得の臨界期あるいは敏感期)。
- 子どもの時にこの音韻カテゴリーが形成されていないと大人になってから外国語を学習しても脳内に新しい音韻カテゴリーを作ることはなかなかうまくいきません。外国語の学習に必須の音素学習に難儀することになります。幼少期に海外で暮らした帰国子女は子どもの時に知らず知らずにさまさまな音素にさらされているため外国語の学習においてじゃ有利になる。そんな風に考えられています。
- われわれの脳内は一定回数以上反復して耳にした「ことば」を自動的に記憶します。そうした耳から学習な言葉で持ってコミュニケーションを取ります。大人気のアニメの定番のセリフを幼児が喋ったりするのはそうしたセリフを処理資源として脳内に貯蔵しているから。およそ3000語が貯蔵される頃、堰を切ったように幼児はしゃべり始めます。
- ことばの記憶のヒエラルキーは、いくつかの階層を持っています。音韻カテゴリー、意味カテゴリー、エピソードカテゴリーなどです。辞書の中で言葉がアイウエオ順に整列するようにことばのテキストとしての情報は感覚言語野(ウェルニッケ野)にプールされていきます。これが音韻カテゴリ。学習だ毛で獲得したある意味表層的な理解の言葉が意味カテゴリー、体験にもとずく記憶言語がエピソードカテゴリーということになります。五感を同時に刺激するような体得的経験にリンクしたことばは例えば匂いを嗅いだだけでその時の誰かが話した内容をスラスラと思い出させたりします。
- 音声に内包されるイントネーションやアクセントやプロソディーなどのリズムは、テクスチャと呼ばれます。コミュニケーションにおいて重要な 隠喩、暗喩、喜怒哀楽を伝えてくれる大事な情報です。こちらは、聴覚皮質の後ろ側にある 角回や縁上回といった場所で処理されていると考えられています。方言の持つ独特な抑揚で「愛しとうよ」「好きなんじゃ」と言われるほうが標準語の「愛してる」よりもずっと心の琴線に触れるのはテクスチャの力です。
- 文法や文脈の使い分けは、聞きことばのパターン学習からも獲得されますが、それらは本来、生活や文化に根ざした所作から身についていきます。しつけがしかりした子どもはおのずとお行儀がよくなります、それは物腰やことばの語順にも効いてきます。耳学問よりもしつけの影響のほうがより強固にその人の言語性の形成に影響が大きいのです。そうした体得的言語というものはどうやら大脳ではなく小脳に記録されている。そんな小脳言語野説を私は支持しています。
- 雑駁な音の洪水の中から 脳は特定の話者のイントネーションだけが脳に届きやすくなるようにするリズムフィルタもヒトの脳には備わっています。このフィルタは、鼓膜や耳小骨を支え調節するとても小さな筋肉です。「あれ言われると耳が痛いよね」と耳を痛くするのは三叉神経支配の鼓膜張筋の過緊張が原因ですし、ショックでふさぎ込んだ時に聞こえなくなるのは顔面神経支配のあぶみ骨筋が固まってしまうからです。あぶみ骨筋が固まる時は表情まで凍りつくので察しの良い人なら、「こいつもうオレの話聞いとらんな」と気がつけることでしょう。つまり、三叉神経と顔面神経によってヒトの声を拒絶するしくみを脳は持っているわけです。概ねおかあさんのはなすリズムにちかいのはスルッと耳から脳に入るようです。
- 耳から入ってきた「聞こえた音」は即座に脳内辞書と照らし合わせの作業が行われます。0.3秒以内にマッチングできないと シカト 。マッチングできたら 当然なにかのレスポンス をします。レスポンスは、音声言語、アイコンタクト、身振り手振りなど様々ですが、基本、0.8秒以内に返すのが霊長類に共通した所作のようです。1.0秒超えるようなレスポンスだと聞き手は無視されたあるいは拒否されたと判断し、次なる手段でアプローチします。そうした相手の遅延気味のレスが続くとコミュニケーションをとることをあきらめたり、逆切れしたりします。
- レスポンスタイムにこのようなリミットがあるので、スムースなコミュニケーションにはスキルが必要になります。特に高齢者や発達障がい者や聞きとりにくさを抱えた難聴者はどうしてもそのハンディゆえに遅れがち。遅れまいと先読みしながら巧みにコミュニケーションするスキルの獲得がないとすれ違いや拒絶されてしまうことに陥ってしまいます。しかし「先読み」という行動は、うまくいけば勘の良さ、頭の良さにつながるのですが、やりすぎや早すぎは遅すぎは想定外のコミュニケーションエラーを引き起こしてしまいます。
今回はこの辺りでいったんおしまい。
次回は、先読みの生み出す諸問題とその解決法をお話しします。
つづく•••••••
それじゃ、さようなら。ごきげんよう。