こちら難聴・耳鳴り外来です!

きこえ、コミュニケーション、そして認知や学習などについて”聴覚評論家 中川雅文" が持論・自説を思うままにつづっています。ときどき脱線しますがご勘弁を(^^;

補聴器の処方式の変遷そして今行うべき処方式とは vet.4

補聴器の処方式とは

私たちの耳は、小さな音から大きな音まで聞くことができます。これをきこえのダイナミックレンジと呼びます。

難聴になると小さな音は聞こえないし、大きな音は響いてしまいます。難聴者は健聴者とは異なるきこえのダイナミックレンジを持っています。

補聴器は、難聴者が健聴者とは同じように小さな音も大きな音も自然に聞こえるようにとダイナミックレンジを調節する装置なのです。

(補聴器にはこのほかに、方向感、雑音除去、語音明瞭度の強調など時間窓を通過するとき、時間断面的に音情報を処理する機能があり、ダイナミックレンジレンジの調整はそうしたら時間断面的な調整をするときの基本の基本となります。そのほかにも圧縮、拡張、ニーポイントと言った時間横断的に時定数をコントロールする形での調整もありますがこれは処方式の中での調整から切り離されています。Oticon OPNをはじめとする次世代補聴器は、時間断面、時間横断的に加えて、空間を面として処理することも可能としてきています。私たちは今全く新しい技術に直面していて、それゆえに、現行の補聴器の フィッティングを整理し、十分に理解しておかないとならないのです。これから参入する新しい人はここで述べる技術を学ぶ必要はないですが、一方で、時間断面横断的処方の補聴器ユーザーはあと10年はいることになるので今関わっている人こそ完璧にこれらを理解しておく必要があります。)

 

処方式の変遷

リニア補聴器の時代に考案された処方式として、ハーフゲイン処方式があります。ラウドネス成長曲線から分かるようにハーフゲインでは中高度難聴者の場合 OSPL90で過剰な利得になってしまいます。そこでNAL 処方が考案されました。ハーフゲインの改良版として。

ラウドネス成長曲線に適合させることのできる技術としてノンリニア補聴器が登場します。処方式はNAL-NL1へと改良されます。NLとはノンリニアの略です。

しかしこうした処方式は、純音聴力検査が正確にできていることが前提の処方です。

認知症うつ病統合失調症注意欠陥多動性障害、音過敏症などボタン押しエラーの可能性がある方のオージオグラムは信頼性はないと言えます。)

 

そのため聴力検査の信頼性が低い小児難聴では、ハーフゲインやNALとは違うコンセプトがとられました。学習のために補聴器の必要な子どもは低レベルの入力でも充分なゲインが必要だからです。DSL処方はそんな現場のニーズからオージオグラムに依存しない処方式として考案されました。のぞましい(デザイアード)サウンドレベルの略です(肉声でのことばの聞き取りやすさを目安にフェイススケールから評価する)。

しかし、ゲインを低レベルでもあげてしまうといろんな不都合が生まれます。NALNL1であったとしても、DSLであったとしてもOSPL90時には外耳道共鳴のためにオーバーゲインになる。補聴器の利得過剰のために補聴器による音響外傷が問題となり始めたのか1990年代です。

 

補聴器による難聴を防ぐために

そんなことから米国では2ccカプラーでの評価をやめ、1ccカプラーつまり擬似耳を使うようになります。日本以外ではもう2ccカプラーは使われていません。しかし1ccでも過剰利得の問題は解決できませんでした。90年代後半から、外耳道内にチューブマイクを挿入して、実際の装用利得をはかる実耳計測の技術が開発されます。90dB入力時の鼓膜面でのレスポンスを測り、その最大値が115を超えないようにすることが補聴器による音響外傷を防ぐ最善の策であるという考え方が出てきます。

難聴とは神経インパルスが脳に有効に到達していない状況のことで、音響による内耳障害とはたんに音圧レベルと暴露時間に応じての有毛細胞への物理的な負荷のことですから、大きな音は難聴で聞こえなくても残存する有毛細胞を壊していきます。

現在時点で最善の処方式は?

1998年ごろから2010くらいにかけての臨床研究から、実耳利得を統計学的に考慮した処方式NAL-NL2が開発されます。ラウドネスではな言語の持つ音調にフォーカスを当てた処方式です。ある意味、ハーフゲインから決別した処方式と言えます。フールプルーフに外耳道共鳴の悪影響を回避できる処方式として欧米では評価が高いのですが、日本国内では、母音の利得が抑えめである、低レベル入力時のゲインが不足気味という間違った解釈をするひとが多く、実耳測定が前提にあるNAL-NL1を実耳測定しないまま適応する状況がいまだに続いています。

 

*補聴器による音響外傷を引き起こす可能性の高いハーフゲイン処方の問題点にたって生まれたのがNAL-NL2に至る処方の歴史と言えます。抗結核薬や抗がん剤がより副作用の少ない薬に変わっていったように補聴器の処方式は変わっていきました。今の時代に、ハーフゲインを口にする医師がいたとすれば30年前の古い知識ということになりますし、そんな処方式でフィッティングされるのはリスクのこと考えるとこわくてしかたありません。

 

NAL-NL2に必要こと

聴覚コミュニケーションは、7割が聴覚、3割がリップリーディングと言われています。マガーク効果として知られているように、「ぱ、ふぁ、ば、だ、が」は耳だけでの識別は困難なひとが少なくありません。言語が成立するために必要な音素は言語学的には40から80くらいといわれていますが、自然生成的には27前後であることが霊長類の研究からわかっています。逆にいうと教育がないと50音の確保は難しいということになります。また、その獲得には聴覚だけでなく視覚ストラテジーの指導も必要となります。補聴器によって失われた語音を取り戻すには、きこえていた時の能力を呼び戻すためのトレーニングが必要必要となります。

私たちはふつうに耳と目でコミュニケーションしています。耳と違って目の補償はほとんどの方がやっていますから、視覚認知を活用してなくした語音を呼び起こすということになります。そんなことができるのでしょうか?

愛媛大学教育学部の立入先生や帝京大溝の口の白馬先生が進めている雑音下でのスピーチテイクのトレーニングは、補聴器で得られる周波数レスポンス、つまり聴取できたフォルマント分布パターンをリッブリーディングという視覚活用を利用しつつ、学び、補聴器に最適な聴覚フィルターの活用できる視聴覚認知パターンを獲得していくトレーニングと言えます。

NAL-NL2の根幹には、こうした視覚ストラテジーを活用することが前提としてあります。つまり、聴覚士の介在が必要なのです。しかし残念なことに、補聴器販売店にも耳鼻科クリニックにもまず聴覚士の方がいらっしゃることはありません。

 

じゃ、どうすればいいの?

ハーフゲインやDSL4.0以下やBAL-NL2未満では実耳測定による補正なしには、補聴器による音響外傷を回避できません。そうした古いコンセプトははやくに卒業することが大事です。

補聴器によるヒアリングストラテジーは、リップリーディングの併用を前提とした、トータルコミュニケーション作法に変わっている。補聴器は耳鼻科医の牙城では無いのです。

今、補聴器販売店にできることは、そうしたことを理解できている言語聴覚士を雇い入れることだと思います。

 

今起こっているダメなこと

無難聴性耳鳴に対してサウンドジェネレータを適応しできた時代から、高音急墜型感音難聴の耳鳴にオープン補聴器をフィッティングするようになり、耳鳴の治療で補聴器を使うようになってきました。マスカーやTRTのコンセプトは1990年代のハーフゲインの時代の考え方です。海外では耳鳴に対するノイズジェネレータも耳鳴に対する補聴器も実耳できちんとやることがかふつうに行われていますがなぜか実事はやってるところがありません。

振り返ってみれば気がつくと思いますが、学会では、補聴器と耳鳴は同じ時間帯に別々の会場で発表が行われてきました。そう耳鳴の専門家という人の多くは実はあまり補聴器とか音響に詳しく無いのです(補聴器と人工内耳の先生は音響学会で見かけますが、耳鳴の先生は私の知る限りいらっしゃいません。電気生理とか心理とかも同じです。)。

音響療法のコンセプトに重きを置きすぎて難聴と耳鳴のある人にハーフゲインで処方するとそもそもあコンセプトが古いからオーバーゲインになりやすいという問題が生まれる。難聴リスクが高まります。実耳なしのマスカーやTRT は補聴器による音響外傷で難聴が進み人工内耳への移行が早まってしまうリスクを高めてしまうかもしれないのでつつしむべきなのです。

自身の反省もこめて

自分自身もこうしたことをわかっていながら、現場が忙しさにかまけて実耳測定をおろそかにするあるいは現場スタッフのテクニカルに下手であることをときに流して、換算値てやり過ごしてしまっていらことがあります。実際、実耳するのは非常に労力がいる割に診療報酬が担保されていないし、自費というわけにもいかない。わかっていても自分で開業でもしてない限り徹底するのは難しい。

ただし、冷静になって考えると、医師が抗菌薬を選択するときは必ず、セフェム系キノロン系かマクロライドかと思案している。補聴器の処方式はなぜかハーフゲイン一辺倒。4000人もいる相談医なのですが、そうした議論が全くと言っていいほどない。ふつうに考えればありえないことが現場ではおこっているのです。

 

今できる解決策  まとめ

どうすれば現時点で正しいのかということになりますが、

1: オージオグラムが正しく取れる場合は、NAL-2のデフォルトのままでよしとする。下手の考えは無用。新聞のかしゃかしゃがうるさいそうなら高域下げましょうとやるは愚の骨頂。低レベル入力のアタックタイムを遅延させるとか、低域でのエクスパンションを聞かせないとか周波数じゃなく時定数で処理するのが道理。

2: NALーNL2ではどうも聴こえないというという人は低レベル入力のゲインあげようとエクスパンションかけるくらいならDSLv5とする。実耳測定の補正もできない(しない)くせにNL1なんかには手を出さないこと。

3: ちゃんと言語聴覚士のアドバイスを受けること。ヒアリングストラテジーのプロは耳鼻科医じゃなくてSATさんたち。彼らにしっかりと、耳だけでなく十の目と心(脳)を使う「聴く」という方法を教えてもらう(リッブリーデイングできると、音場下での聞き取りは30%以上改善します。
4: あと忘れちゃいけないのは、認知機能とADL。75歳以上と未就学児と、そして車椅子な人は、教科書通りDSLi/oを適応するのがベター。

 

とにかくちまちま調整する技能者はホントにわかっているのか怪しいし信用し難い。

ハーフゲインいう不勉強な医師とは付き合わない。

医師と技能者だけで議論してるとここに書いたような議論をする環境が生まれにくいから、必ず言語聴覚士を介在させる(といっても言語聴覚士にもいろいろなのは事実。)。

 

追記

高齢化が進み難聴と認知症の問題もでてきています。

認知機能の維持に補聴器を活用する。補聴器の現場はさらに混沌とした難しい状況が生まれています。

そんな時代なのになぜか補聴器の今をわかっているひとがあまりに少ない。

メーカーもM&Aが多すぎて人の出入りが多すぎてで、自社製品の技術説明できるような人がいなくなった。

OPNとか museとかもう音響機器とおりこして空間処理する機器へと変わるタイミングなのにこんなんでいいのかとため息が出てくる。

ここはしっかり総括しておかないと未来につなげなくなってしまいます。

耳鼻科医も技能者ももっともっと勉強しなきゃならないし、何より言語聴覚士と仲良くしないことには未来はないかなと思う次第です。

おわり。

 

毎月、補聴器ハンドブック勉強会を開催しています。2018年度(19年7月までは新横浜から徒歩5分の会議室をお借りしての開催です。会場整理費をいただいております。参加は、補聴器ハンドブック第2版所有者であれば、それ以外の条件はありません。学びたい方どなたにも開かれてます。詳細は、FBあるいはツイッターから検索下さい)

今年は北京でなにお話ししようかな^_^

 

『本のチカラ。〜本を読むは脳に良い〜』

 TBSでも再放送されたらしい☺️

紙の匂いはとても大事。

街頭で配られる小冊子「めざめよ!」。かつては明確なフレグランスシグネチャをもつアイコンだった。ついぞその方面の信心はしなかったけどあのニオイが好きで子どもの頃はいつも冊子もらっていた。

 

 

追補

デジタルオンライン査読になってからなにやら意欲が失せている自分(^^;。

『本のチカラ。〜本を読むは脳に良い〜(仮)』CBCテレビ

本を読むときに何が起きているのか  ことばとビジュアルの間、目と頭の間

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耳トレ!-こちら難聴・耳鳴り外来です。

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[日めくり]耳の聞こえがよくなるトレーニング

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耳の聞こえがよくなる!3分トレーニング

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音から耳をまもろう! その3

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「耳の不調」が脳までダメにする (講談社+α新書)

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 今はもう絶版ですが、この冊子を起点にしていろんなスピンオフがありました。

 

耳がよく聞こえる! ようになる本:自分で聴力を回復する正しい方法

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耳鳴り・難聴・めまいを自力でぐんぐん治すコツがわかる本

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 めまい、耳鳴り、難聴の大家の先生方から珠玉の原稿を頂き、セルフマネジメントとして集大成としたのがこれです。

 

耳と脳 臨床聴覚コミュニケーション学試論

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こちらは言語聴覚士学科1年生むけにかいた教科書です。おそらく一般のかたでもたのしめるかと。 

 

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補聴器ハンドブック 原著第2版

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脳の可塑性可塑性のメカニズムと神経系の障害

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音から耳をまもろう! その2

 

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 大きめを浅くつける方が耳が痛くなりにくい。僕は普段はMだけどこれはLを浅めにつかっている。