こちら難聴・耳鳴り外来です!

きこえ、コミュニケーション、そして認知や学習などについて”聴覚評論家 中川雅文" が持論・自説を思うままにつづっています。ときどき脱線しますがご勘弁を(^^;

補聴器の両耳装用について

両耳装用の適応とは

20世紀のおわりに両耳装用のブームが生まれました。

そして脳科学の一通りの知見から21世紀の今、必ずしも両耳装用である必要がないと議論されるようになっています。

現時点での両耳装用の処方とはきわめて高度な知識を要するチャレンジになってしまっています。

 

次のような事例が両耳装用の適応のようです(参考 Hearing aids 2nd)。

  • 左右ともベントなどの付属部品も含めて同じスペックとし同型式のものを処方する
  • 左右差のない感音難聴(もっとも良い適応は軽度難聴)
  • フィッティングは優位半球(きき耳)を考慮した左右異なる調整とする
  • NALかDSLかは大きな問題とならないがREMは必須。

追加として、

  • 語音明瞭度の悪いケース
  • 高度難聴以上のケース

などが適応になるとしています。

このことは逆に言うと次のようなケースは両耳装用の適応にならないこと(慎重であるべきこと)を意味します。

  • 左右差が40dB以上ある場合
  • 左右に同じ型式の補聴器を装用できない場合
  • 左右の難聴のタイプが異なる場合
  • 優位脳がない場合

こうした考え方は補聴器の技術進歩によって早晩改められるものであってその方針が法律のように永続的なしばりになるものではありません。時代とともに考え方は変わると言うことをまずもって理解しておく必要があります。その意味でここで展開する私の話は2012年の技術をベースに考えた両耳装用とはかくあるべしというはなしになるのでしょう。

両耳装用の黎明期

両耳装用というコンセプトで補聴器販売が精力的に展開されたのが、1996年になります。それまでにも両耳に補聴器を装用させることはありましたが聴覚生理学的な裏付けはとぼしかったのが、プログラマブルによって生理学的な事象を反映させながらフィッティングかのうとなったからです。この年、スターキー社から両耳装用用補聴器「セテラ」が登場しました。

両耳装用を原則としたプログラマブルアナログ補聴器の登場によってはじめて左右の補聴器をひとつのシステムとしてフィッティングさせることが可能となったのです。

セテラは真に画期的技術を搭載した製品でしたが、当時のクリニシャンのレベルではその価値を理解することは困難でしたし、処方上の制約、例えばサイズはITE型、フェースプレートの向きは正確に外方を左右同じ角度を向くこと、指定されたベントサイズをもちいること、実耳計測を必須とすることなど、当時の現場ではほとんど対応できずでした。結果としてセテラはその効果をクライアントに体験させることができないままにカタログからから消えてしまいした。

その後も補聴器はデジタル化をおしすすめました。アナログ時代は音量、音質、MOPをいじることであるいはそこにチューブやベントや耳せんを工夫することで高域と低域のバランスを調整するというのが主流でしたが、2chデジタルでそれは容易に調整可能となり、数年もしないうちにチャネル数は32を超えるほどにまで拡大されました。ch数が増えた今われわれはふたたび低域中域高域くらいの調整しかおこなわなくなっています。これはNAL2などのフィッティングソフトが、オージオグラムに対して厳格に増幅値を設定する方法ではなく、chとchの間のchをより自然なフィッティングのためのスムージングのために活用するようになったからです。

置き去りにされた両耳議論と一人歩きしたデジタル革命

つづいて、第2世代の時代に入ります。いわゆるオープンフィッティングの波がそれに当てはまります。デジタル化でチャネル数が増えたことにより使用しないch、つまり他のことに活用できる余裕が生まれました。まずそうしたchの活用としてハウリング対策に使うことがおこなわれるようになります。ハウリングを生じている周波数を見定め、その周波数の音をハウリングの生じない周波数帯に移転して展開するという工夫がおこなわれるようになりました。もちろんこうした手法では、まずフィードバック発振の存在を補聴器自身が認識する必要があるので真のハウリングゼロにはなかなかなりません。当時のデジタルはAD/DA変換に4msくらいかかってたので「プッチ」というようなとても小さなノイズとしてのハウリングをゼロにすることはなかなかできませんでした。64chの時代になり、処理速度も1〜3msになりハウリングフリーの補聴器が生まれたそれが第2世代デジタルといえるでしょう。

こうしたハウリング対策技術の発展型として周波数移転技術が生まれます。ワイデックスが当初提案した方式は補聴効果の得がたい高音域(不感領域、デッドリージョン)を増幅してもむだだからその音をハウリングの防止で移転する時の要領で他の周波数にシフトしてしまうと言うやり方でした。しかし当時は、周波数ベースで単純にその帯域の情報を移動しただけでしたから、移動された帯域で元々の音と移転された音とが干渉し当初期待された明瞭度改善という効果をもたらすことはありませんでした。小児難聴についての洞察が深いフォナック社はワイデックスとは別な視点からこの問題に取り組んでいました。彼らはナィーダと呼ぶ周波数圧縮技術を提案しました。ワイデックスの移転と大きく異なるのは高域から中域の音を例えば、8000〜2000Hzの帯域の音を6000Hz〜2000Hzの範囲へとノンリニアに圧縮して展開する方法を選択したのです。移転と異なり干渉のリスクはなくなりましたが音質の変化という大きな壁に突き当たります。小児例のように言語獲得期ならそうした歪みは問題になりませんが、成人例ではフォルマントパターンの変化は過去の記憶の活用において非常に不利になってしまいます。周波数遷移分布パターンが変化してしまうことは聴覚印象上あまりよいことではなかったようです。いまでも周波数圧縮の技術は小児難聴例では絶大な効果を示していますが、成人例では、移転か圧縮かは大きな悩みどころです。TENテストなどができればこうした選択上の悩みはいまよりはづっと明確に判断できることでしょう。

2.5世代と3世代デジタルの時代

ぼくは、適応型のアレイによる指向性の精度アップと過渡特性から音声と衝撃音を瞬時に区別することが可能な高速のCPUという2つの技術は確かに優れていますが3世代と呼ぶレベルではないと考えています。

 

ひとまずここで筆おきます()