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こちら難聴・耳鳴り外来です!

きこえ、コミュニケーション、そして認知や学習などについて”聴覚評論家 中川雅文" が持論・自説を思うままにつづっています。ときどき脱線しますがご勘弁を(^^;

補聴器の新技術を伝えることの難しさ。

先日ユニトロンのTruefitと関連した技術情報についての説明を聞く機会がありました。

講演の要旨は、

  • 指向性に関する機能の精度が高まり、6つの環境を自動識別できるようになった。
  • マイクロホンの機能が高まり聞こえのダイナミックレンジの拡大ができるようになった。

という2点でした。

限られた時間ということもありますが、

最初にTrueFitオートログインでそのあとにダイナミックレンジの広いマイクの話しという順番だったせいもあって、残念ながら講師の話から技術の先進性やどのようなクライアントに必要とされた技術かを理解することができませんでした(というかクライアントに欲しいものを与えるという姿勢が大事というニュアンスしか感じられませんでした)。

 

補聴器に詳しいというか音響に詳しい人なら知っていることだと思うのですが、指向性マイクロフォンとは、2つ以上の無指向性マイクロホンを組み合わせ、音圧差や位相差や時間差を利用して、指向性を持たせる技術のことです。ですからふたつのマイクロホンの位置(距離と角度)がその機能実現には極めて重要な条件となってきます。現状では、そうした距離と角度を正確に実現できるのは筐体(ケース)の大きな耳かけ形補聴器しかありません。BTEでしかその技術的アドバンテージを実現できないと言い切れるのです。耳あな形補聴器のようにフェースプレートの面積に制限がある補聴器に搭載することを前提とされた技術ではありません。

耳あな形にツインマイクで指向性実現が難しいかというと、

  • 耳あな式では、ひとそれぞれに耳の大きさが異なるために2つのマイクロホン間の距離を十分確保しがたい。
  • 耳介による遮蔽効果を活用できる耳あな形は一方で2つ以上のマイクとした場合には、その遮蔽効果ゆえに指向性の再現において安定性が損なわれる。個人個人の耳介形状の差異が結果として指向性を損なわせる。

という根本的な課題が現状のITEのディメンションでは解決のやりようもないからです。

もちろんそうした弱点はメーカーも承知のようで、指向性付きのITEで効果が出ないときは、聞き手の胸につけてもらう遠隔マイク (パーソナルなFMみたいなものか? )を使いましょう的なオプションも用意しているようです。しかしそんなオプションが必要なレベルでしか指向性の効果を実現できていないということをメーカー自ら暴露しているみたいでなんとも滑稽です。

とにもかくにも先日の話しは、それを聞き終わった直後は、「せっかくの素晴らしい新技術なのに・・・」とそのスゴさを講師から感じ取ることができませんでした。

  http://www.njha.co.jp/products/manufacture/?q=unitron

 

ユニトロンの最新式補聴器は、現在、実環境を6つの環境に分類し、その全てを識別させる機能が備わっています。6つに分割して識別できるのがproという最高価格のバージョンです。次いで、800、700、600とグレード(価格)が下がるほどに識別できる環境の分類の数が減っていくという体系になっているようです。最下位の500という廉価モデルはこのtruefit機能は搭載されていません。

メーカの方の説明ではクライアントと相談しながらどれがいいかを試してみてくださいというはなしでした。

 

ボク的には、

  1. まずproの耳かけ形を両耳装用で試聴させる。
  2. 最低2週間、1日8時間以上の装用をしどうする。
  3. ターゲットゲインの1/3から1/2程度の小さめのゲインにせっていする。
  4. クライアントにはできるだけ積極的な活動レベルで生活してもらう。
  5. 2週後にログを確認し、6つの環境のどの頻度が高いかを確認する。
  6. ログに基づいて、proか600か500かなどを決定する。
  7. 軽度難聴者の場合は、耳穴両耳の500がいちばん良い結果をもたらし、視聴覚統合機能が衰えている後期高齢者は場合により最悪proまで必要かも。

という手順で試聴とフィッティングをすすめていくのが基本になるのだろうとおもった。もちろんログに頼らなくても熟練した言語聴覚士さんならHHIAやHHIEなどを取り、しっかりとカウンセリングするだけでログ以上の情報を得ることが出来ると思う。だから懇切丁寧に生活環境の確認ができるならば、6環境識別のうちのいくつが必要かはカウンセリングだけでもすぐにわかるようにも思いました。いずれにしても指向性マイクロホンの有効性は耳かけでしかエビデンスが確認されていないことは事実ですから、クライアントに耳あな形のITEとかを処方するような愚をすることだけは避けたいなとおもいました(どうしても高価で高スペックがいいように思いがちですが、数字だけに踊らされても仕方ないのが実際なのです)。

残念ながらその時の講演からは、ITEの持つディスアドバンテージ(弱点)についての説明は聞くこともできませんでした(メーカから派遣された講師はつねに利益相反というジレンマを持っているわけです)。

 

2つめのダイナミックレンジを拡大した高性能マイクロホンについての説明もなんだか消化不良で終わってしまいました。それはひとえにプレゼンの手順のわるさによるところですが・・・

紹介された技術革新は、

  • 24dB〜96dBであったノールズのマイクロホンのダイナミックレンジが、16〜110程度まで拡大された。
  • これにより近点から遠点までどの場所の音もピックアップできるようになった。

というきわめてシンプルでしかもこれはノールズのマターであってユニトロンとは関係のない部品レベルの話しでした。

しかし、ボク的には、「これまで以上にワイドダイナミックレンジナマイクロフォンが搭載された」と言われてもその恩恵がさっぱりわかりませんでした。

  1. 人の知覚とはできるだけ不要な情報を無視して必要な情報だけをピックアップするように機能しているのが本来ですから、そんなに聞こえのダイナミックレンジを広くしたって意味がないよとまず思ってしまいました。
  2. さらに、ささやき声はぜいぜい30dBくらいだからそれよりもうーんと小さな16dBを聞く必要なんてほとんどないんじゃないのと低レベルへの拡大のメリットにも多いに疑問を感じ、
  3. そこで思ったのは4Kテレビのことでした。わが家に鎮座する60インチのビエラ君は映像がきれいだけどその鮮やかさがあだとなってどこを見ていいかさっぱりわかりません。結局、映像フィルタをいろいろ使って、そうした繊細さをずいぶんとボカした条件にして日々使っています。おなじようなことはデジカメもいっしょで、一眼レフの映像のもつケラレ感が映像の美しさとメッセージの一貫性を生み出しています。きっと同じように4Kばりにダイナミックレンジを拡大させてしまったこの最新補聴器は、これまで通りに音の世界を楽しむためにはフィルターでぼかすしかなかったのかなとひねくれてとらえてしまいました。

そうしたことをかんがえながらふと気がついたのは、彼のプレゼンの下手くそぶりであって実はやはりこの技術はすごいぞということだったのです。

つまり、

  1. ダイナミックレンジの広いマイクロホンを手に入れたおかげで、無視すべき音の種類を正確に識別できるようになった。
  2. その結果として6つの環境識別ができるようになった。
  3. その環境識別には複数個のマイクと極めて高速なCPUが必要となるから、6環境識別は極めて高額になる。
  4. 軽度難聴者で認知機能に問題のないクライアントは耳あなの500の両耳装用が一番良い適応で、
  5. 視力がていかしていたり、認知機能が悪いひとには、環境識別のアシストがあると良いだろう。
  6. その場合には耳かけであるべきだし、proを試聴させ、ログとって必要な環境設定を決める必要がある。

ぼくなりにはそんな結論を出すことで納得できたのです。しかし、きっとメーカーはそのためにproをまず試聴器で使いましょうとサポートしてくてることはないだろうなと現実を想起してしまい、せっかくの新技術もこうしてまた普及しないのかなと行く先を案じてしまいました。

 

最新の補聴器はあまりに高スペックでそしてその技術もブラックボックス化しすぎていてメーカープレゼンであってもしっかりその本質を伝えきれていない現実に久しぶりに暗鬱な気分になってしまった。

 

講演のあとにはすこし辛口な質問をしてそうしたことを改善して欲しいと伝える機会もあったし、その後の懇親会では彼がそうした課題を十分理解して今後に反映させるとおっしゃってくれたのはせめてもの救いでした。

 

しかし、せっかくの勉強会に出席してもそうした矛盾に疑問なり質問なりをしない技能者さんてやる気あるのかなと見渡すと50人はいると思われた彼らの理解力がより気になってしまいました(>_<)

 

おわり。

 

 

追加コメント:

未だに耳あな形の補聴器でも指向性機能を進める販売店が少なくない。

科学的にその価値がないことがわかっているにもかかわらずである。

あげくにメーカーはオプションで話者の胸につけるトランスミッターのオプションまで用意している。

耳かけ形なら得られる指向性が耳あなでは得られないから耳あなを買ったクライアントは意味のない高いお金を払わされたあげくにトランスミッターまで買わされる羽目になっている。

機能しないオプションをさも効果があるようにしてうるのはいかがなものかといぶかしく思う。

 

追加コメント2

耳あなのツインマイクでSN比で3.2dbの改善とか、耳かけで5.2dbの改善とかメーカーのカタログではまるで素晴らしく改善したふうの説明がなされている。しかし、いったん立ち止まって考えてみてほしい。オージオグラムも語音明瞭度検査も5dbステップで行われていることを。本当に効果があると言えるのは、2目盛りつまり10dB以上の改善のとき。それ以上の改善がなければ誤差範囲のれべるでしか改善していないと考えるのが科学的な思考だ。その意味では、耳かけのツインマイクでもそのメリットはわずだ。ITEのフェースプレートに2つのマイクの距離を正確に設定しつつかつそれらを正確に水平を維持させた設計で製作することをすべてのクライアント(耳の大きさも耳介形状もことなる)で実現することはほぼ不可能だ。ITEのツインマイクで効果があるとするメーカーの宣伝はその意味でとてもうさんくさい。

 

追加コメント3

3dBで1.4倍、6dBで2倍というのは、音を扱う人の常識で、一見するとその値は十分すぎる差です。しかし、5dBステップで計算した時の平均値が、例えば2.5dBであったなら、その統計処理データは「半分の人が0dBで残り半分が5dBの平均値」ということもできます。つまり半数は役に立たない。統計データの平均値をみても実際のクライアントへのメリットはいっこうにわかりません。一部になんとなく効果があるかもというのがいたというレベルでしかありません。 BTEで5db程度もの?改善があったことは、「10と0の人が半々だった」からという解釈もできます。これなら半数のヒトは恩恵を受けたことになります。指向性の価値を否定しているわけではありませんが、研究データのしめすエビデンスはとても弱いものです。それは耳介形状の個体差という課題を技術がこれからどのように凌駕するかにかかっています。

エビデンスベースのフィッティングは大事なのですが、そのベースとなる論文のデータを正しく理解できないとまんまとメーカーのスポークスマンになってしまいます。現状では、耳穴のツインマイクのコストパフォーマンスはNGだとぼくは考えます。

耳穴をクライアントに買わせたあげくに「このITEの指向性は最高峰です。これで効果がないのなら別売りの遠隔マイク使いましょう」というのは話が違うと思うのです。SNを議論のたたき台にしたいなら指向性より先に、FMや遠隔マイクを進めるのが先かと。

 

このわたしの意見にはいろんな反論をいただきました。

それについての回答として幾つかのコメントを付記しました。

わたしが言いたいことは、

  • 指向性マイクは過渡期の技術である。
  • すべての人を満足させられる技術とはなってない。
  • コストパフォーマンスがわるい。特に、耳穴は耳かけの半分以下の効果しかないのに逆に高くなってしまう。
  • そうした課題をごまかすように、遠隔マイクのオプションを提案するのは本末転倒ではないか?
  • メーカーも販売店も技術過信ではなくもっと謙虚になって、ほしい。

ということなのです。近い将来にこうした課題は解決されるでしょう。

 

コメントの追加はこれで終いにします。

では(⌒-⌒; )