ノイズは赤ちゃんのことばの発達の阻害要因!
あかちゃんのことばの学習は、
①音素の獲得
②音韻獲得、
③プロソディー獲得、
そして
④単語獲得やセマンティックスといった意味獲得
といった一連のボトムアップ型の情報処理で成立しています。
③のプロソディ学習は胎教の段階で獲得されますし、
①と②は生後半年以内にほぼ獲得されています。実際に発音できるようになるのは、起立歩行ができるようになる時期なのは、呼吸筋を自由にコントロールできるような筋力や骨格を手に入れるまでにそれくらいの期間というか成長が必要だからです。ですから、6ヶ月児でも結構ヒアリングはできているわけです。
①〜③の獲得には、無音部分の検出と抑揚(コントラスト)の把握とかがとても問題となってきます。ですから背景にノイズがあるとそうした情報を正確に捉えることができず、学習上の不都合も生じてくると考えられています。
ここで引用した記事はそのことが書かれています。
耳鼻科医とか小児の発達を取り扱う専門職のひとからみればあたりまえの話しなのですが、こうしてネット上の記事になるところをみると「われわれの常識は世間の非常識」であるようです。
しかし、このことは、高齢の難聴者にはあてはまりません。
高齢者は全く逆になるのです。
かれらは、すでに音素も音韻もプロソディも学習と経験によって手に入れています。テンプレートとして脳内処理資源として持っている「母語に特化した音素」と「生活圏にリンクした音韻とプロソディ」をもっています。
そんなテンプレートを使っているので赤ちゃんの使う喃語のようにあるいは名古屋人のように「みゃーみゃー」言っているだけでもなぜかことばを取り交わすことができます。その逆に、テンプレートにあてはまらないことばや音楽は即座にノイズとして意識の外に追いやられてしまいます。「ハネムーンで異国に出かけたときにはあれほど二人っきりで会話が進んだのに、日本に戻るとわたしのことはさっぱり聞いてくれない」という人の少なくないのは日本に戻ると周囲の人の声はノイズではなく聞き取れてしまうから脳内で意識的に無視しないとだめになり、その慌ただしさからとなりにいる大事な人の声さえも聞き取れなくなっているからなのでしょう。
高齢者のことばの理解の過程について再整理してみます。
高齢者は、
①エンベロープの獲得(単語レベルあるいは文レベル)、
②既知のデータベースとの参照、
③推測による判断
というトップダウンプロセスがメインで行われています。
トップダウン処理時はリズムの把握がもっぱら重視して活用されています。
つまり、無音部分の検出と抑揚(コントラスト)の把握が判断の最優先情報となります。しかし、こうした情報をメインに置いてしまうと意味的理解において、ゆらぎの発生を生じてしまいます。
いわゆる思い込みや勘違いあるいは空耳というやつです。
関西人は。「あんた」と「あなた」を聞き分けられますが、どうやら東北人は「あんた」と「あなた」はどちらも「あんた」としかききとれないようです。
これは方言をベースとしたプロソディー処理の違いや音韻強弱の理解の仕方が原因のようです。開鼻声と閉鼻声を使い分けるか閉鼻声だけかというような発音上の問題もあるでしょう。
余談になりますが、鼻と鼻を突き合わせることでキスのような親愛の表現をするエスキモーの文化は、寒くてほおかむりしたフードを外したくないこと、半分かおがかくれているので臭いでも識別したいこと、手袋を外してまでした握手はしたくないこと(手袋して握手してもいみがないことは選挙運動が証明しています)などからあみ出されたスキンシップと言われていますが東北の冷たい空気の文化では閉鼻声が喉を痛めない工夫だったのではないかと思います。
難聴者は電車のホームのようなさわがしいところではかえって聴えるのは聞こえているのではなく、条件が統制されていて、健聴者との話題のずれの発生頻度が低いこととかノイズが原因で音韻修復が常に働いて健聴者ともその点で同じ条件での聞き間違いができるからです。
そう、高齢難聴者は周囲が静かすぎると音が途切れ途切れに聞こえてしまい、ことばを理解できなくなるのです。無音部分の検出能力も若い人なら4msくらいまで識別できるのが高齢者は同じように途切れを検知してもそのあとの音の始まりをピックアップできません。句読点がないと次のことばは聞き取れないのです。
ですから老人に優しい社会ばかりに目を向けてしまうと、乳幼児のことばの獲得をじゃまする社会を作り出してしまうかもしれません。
ちなみに補聴器はノイズリダクションとかいいながらも常時てきどなノイズを発生させて音韻修復の手助けをするようなそんなアイディアが盛り込まれています。ところが年齢によってそうしたモードは有害になるわけですが、めーかーによってはそうした年齢特性を考慮したプログラムデザインになっていないという問題があるようです。
ではまた次回!