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こちら難聴・耳鳴り外来です!

きこえ、コミュニケーション、そして認知や学習などについて”聴覚評論家 中川雅文" が持論・自説を思うままにつづっています。ときどき脱線しますがご勘弁を(^^;

なぜ携帯電話は耳鳴りの原因なのか?

スマホで難聴という話は、イヤホンで音楽を聞く習慣がその主たる原因らしい。

WHOは今年の3月にスマホは1日1時間までという勧告までしている。1時間という数字が算出されたのは多くの人が100dB以上の音量で聞いているからのようだ。

85dB以上が騒音職場に相当する音量であるから なぜにそんなに大きな音にしているのだろうか そんなに大きければ音量くらい下げるのではないかといぶかしく思われるかたもいるかもしれない。しかし、100dB以上というのは意外に簡単に達成できてしまう。

音楽を楽しむにせよ会話を楽しむにせよわれわれが心地よく聞いているときの音量はおよそ60〜90dBくらいだ。ロック音楽などで重低音を楽しむならピークは110dBは欲しいと音楽ファンはいう。クラシックやロック音楽の最大設定が100以下になってしまっていると体で聞くという体感、重低音を感じることがむつかしい。始終100dB以上の音を聞いているわけじゃないからよかろうと思うむきもあるだろう。しかしその油断が問題なのである。

私たちの暮らす現代社会は、かつてないほどに音に溢れている。産業革命以前と比較したらその騒々しさはおそろしい変化だ。自動車、工場、建築現場、戦争(爆弾)などなど他人の発生する騒音や爆音に日々晒されている。そうした生活のかでの積み重ねで耳の1日の許容量を超えてしまう状況にあるからこそ自身で聞く音をマネジメントしなきゃいけないのだ。

120dB 以上の大きさの音なら一瞬だけ耳に入ってきたとしても有毛細胞は即座にダメージを受けて耳鳴りを生み出してしまう。強大音や爆音に対して作動した有毛細胞が不応期に入ってしまうためだ。耳鳴りを感じたら、まずは110dB を1時間以上あるいは120dB以上の衝撃音をふいに聞いてしまったおそれがあると思わなければならない。

そもそも耳鳴とは内耳からの神経インパルスが脳に届かない、滞ってしまうとき、脳のほうが勝手にその不足を埋めるように飽和信号としての「音=耳鳴り」で穴埋めしてしまう。音が途切れてしまうと単語や文章の区切りがわからなくなり意味を理解するのは一苦労。中枢が不足する音を補ってくれれば体のいい音韻修復という結果がえられる。そうした音の不足を補うための耳鳴でさえも補うことができなくなったその時、何がおこるかというと「難聴の自覚」が始まるわけだ。

そう考えると耳鳴は難聴を回避しようとして脳が引き起こす代償とか適応と言い換えるほうが正しいように思えてくる。「耳鳴」は、脳はまだまだ大丈夫というサインあるいは耳が悲鳴を上げ始めた結果なのだ。ところがそうしたポジティブに思える変化としての耳鳴に対して人々は「脳がおかしくなりそうだ」と全く逆の反応をいうから不思議きわまりない。

 

閑話休題

われわれが騒音下に標的音を聞き取るときそのSN比は6〜20dBは必要になる。聴きたい音声は聞きたくないノイズや声よりすくなくとも2倍から10倍も大きな音でなければ聞き取れない。片耳で聴こうとするときには10倍以上も大きな音である必要があるし、両耳なら2倍をこえていれば大丈夫だ。両耳で聴くときには、雑音から標的音を抽出する能力が飛躍的に高まる。これは中枢の働きに他ならず、脳梁の太さと関係しているという意見もある(Dillon 2013)。

REGULARLY using a mobile phone could increase the risk of tinnitus, experts say. The condition causes a noise in the ear such as a ringing, roaring or hissing sound. Around 10 per cent to 15 per cent of adults have chronic tinnitus and it affects quality of life - such as preventing sleeping - in up to 3 per cent of people. Now experts from Austria believe there is a link between tinnitus and mobile phone use after studying 100 people with the condition. (Jane Kirby. Mobile use 'can increase tinnitus.' Fraser Coast Chronicle. July 22, 2010.)(「携帯電話が耳鳴りの原因?」日常的なスマホの利用によって耳鳴が生じていると専門家は警鐘している。耳の中でキーンとかボワーンとかキーとか音が鳴っている状態を耳鳴という。成人の10-15%でこの症状があり、3%では睡眠障害にまでいたる。100名の成人を調べたところスマホ利用者においてこの耳鳴が有意に多いことからそのリスクを研究者がアナウンスしているようだ(2010))

 

環境騒音のレベルは、静かな部屋で40dB、さわがしい場所なら70-80dB、うるさいと感じたときには85dB は超えている。音楽や会話の大きさが60dB以上になるのは静かな部屋でも実は40dB以上の騒音があり、楽に聴き取れるためにはそれよりもSN比で20dB以上となる音声でなければならないからだ。完全に周りの音を遮ってその音だけに集中しようとしたらSN比は40dBくらいは欲しくなる。

電車内で音楽を楽しむ若者のイヤホンから漏れ聞こえてくる音楽。そんなシチュエーションのときには若者は少なくとも、電車内騒音70dB 、漏れ出て聞こえるということから周囲のヒトはその音を90dB近い音で聞いている。漏れ出てくるときに減衰していることを計算すると、その若者はゆうに110dB以上の音量で音楽を楽しんでいることになる。

JapanTrack2012のデータでは、15歳から24歳の層で難聴者の割合が10年前に比較して2倍から3倍に増加していることが報告されている。この世代のスマホ普及率は99%であるからスマホは着実に若者の耳を蝕んでいると言えるだろう。そのまま彼らの耳が経年変化で悪化していけば大難聴社会の到来は高齢化による影響以上に加速度的に生じてしまうかもしれない。

携帯は当然のことながら片耳で聞くものである。雑踏のなかで片耳で聞こうとすれば、おそらく容易に70+20=90dBの音量になっているだろう。周りがうるさいと感じたときには本当は反対側の耳を塞いでやるのが一番良い方法であるが、多くの人はそこで受話部分を耳に押しつける。距離が近づくと音のパワーは大きくなる。押しつけるだけですくなくとも10dBは大きくなってしまう。周りがうるさければ電話で話す自声も張り上げてしまうことになる。そうした相乗効果で結局のところ瞬間的には110-120dB程度の音刺激を耳に負荷してしまっている可能性がある。

寝床にはいって周りを暗くしてしずかな条件になると耳鳴りを感じてしまうひとはその日1日を振り返ってみてほしい。きっとあなたは耳を酷使するようなことをしていたに違いないでしょう。

さあ今日から耳を守りましょう。

 

 

 

 

 

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PS 瞬間的な巨大音への音曝露からの回復には48時間が必要です。48時間耳栓をつけて生活するあるいは閾値レベルでチャープ音が流れる音環境にみをおくことでそうしたみみのトラブルから回復することができます。サウンドコンディショニングによって耳は回復することが期待できます。このことはまた別の機会にお話ししたいと思います。