こちら難聴・耳鳴り外来です!

きこえ、コミュニケーション、そして認知や学習などについて”聴覚評論家 中川雅文" が持論・自説を思うままにつづっています。ときどき脱線しますがご勘弁を(^^;

じやまなか、ASD そして神の手(^。^)

昨日は、地域の先生方と一緒で、大学病院の各科の教授も勢ぞろいの懇親会があった。

基調講演はふたつ。
ひとつは、自閉症スペクトラム障がいASDと遺伝子の話。
もうひとつは、凄腕と言われる整形外科医のこれまでの手術歴の話だった。
秀才の見つけたセレンディプティな業績が遺伝創薬につながるとする夢物語と神から授かった天賦の才能を生かし多くの患者を救ってきたという自分史と言いかえてもいいだろう。
どちらも神の啓示を授からなければとうていたどり着けない「仕業」だ。
 
ASDは、男児に多いらしい。
知的障害のない高機能ASDとしてアスペルガーがある。
男女比では1:11で圧倒的に男児に多い。しかも、遺伝的素因がある。
その遺伝子の変異はほとんどがX染色体(♀)の上にある。
と演者は語る。
さらに男女差の背景は幼少期のシナプスの刈り込みが適切に行われないためである。
女にこうした障がいが生じにくいのは、言語機能の高さや女性ホルモンが影響し、ASD関連遺伝子の発現を抑制しているのではないかとおっしゃっていた。
 
私見:ASDと診断されるのは4歳ごろからである。耳鼻科医のわれわれは難聴という障がいをもっと早くにみている。霊長類の赤ちゃんは、まず体性感覚を意識下に置き、聴覚優位を学ばないと生き残れない。そして、聴覚のドミナンシーを獲得したのちに、視覚を活用していくというのが発達のまっとうな手順だ。ASD児は、読みの困りから見つかる子が少なくない。
聴覚認知は、きこえそのものに滞留性がなく、その認知は主観的であることが許されるコミュニケ-ションなので、困りがあるか否かは 本人にしかわからない。さらにそれがほんとうに困りなのかそうでないかは児の発達(成長)を待つまではわからない。視覚認知のこまりもASD同様に幼児期に顕在化する。文字を読めないという現象から発見される。そうした視覚認知のこまりは再現性があり、他人が確認することも容易であるからみつかる。ASD児の目配りやじっとできない状況は、皮膚感覚や聴覚を活用することだけでは自分が安心できる場所にいると確信できないための不安が生み出すものではないかと行動生理的に理解したいのがわたしの持論だ。
 
講演がASDの遺伝子と脳内伝達物質の話に及び、ASDの未来は創薬によって解決されうるという段になってなんだか素直に耳を傾けることができなくなった。講演の冒頭ででてきた「発症率の数万人に1人が今や100人に2.6人と増加している。」ということばがとても気になったからだ。
確かに数字上は世界でASDが増えている。
でも私がよく知る障害児教育学の碩学 K崎先生はこうおっしゃっていた。
「診断基準が変わって窓口が広がっただけ。けして増えたわけじゃない。」
昔拝聴した講義のことばがフラッシュバックした。
舞台は、わたしがすっきりしないままに次にうつった。
今度は神の手を持つ整形外科医のこれまでの素晴らしい業績のお話だった。ビデオで流される見事な手さばきに溜飲し、正直、こんな器用な手を持つひとは、例え彼がどんなに努力なひとであっても、これこそ天賦の才と正直自分の授かった手を疎ましく眺めてしまった。
 
講演が終わり、着席の懇親会が始まった。
難しい遺伝子の話と生々しい手術ビデオの供覧後だったからだけではないだろうが、宴の盛り上がりというか切り替えは早かった。
わたしの隣の教授が切り出した。
隣人「神の手の整形外科を話題にするなら、じゃまなかさんのはなしもしなきゃね」
わたし「そういえばノーベル賞は男が圧倒的に多いね(^。^)」
と一杯入った普通の教授同士での雑談が始まった。
女性ホルモンもコミュニケーションスキルに必要な言語も持ち合わせない男たちの逆襲とでも言えばいいのだろうか。
セレンディプティって1/1000の確率の偶然っていう意味だ。偶然、手順を間違えたり失敗した時に偉大な発見しているわけじゃん。」
「同じことにこだわり続ける。その反復のうちの失敗が偉大な発明ってことだってあるわけで・・・。こだわり行動もいいんじゃないかな。男性は皆アスペ。とくに医者になるようなのはみなアスペだからノーベル賞、それがなんか問題あるの?」
 
昨夜の講演のそのあまりにコントラストの効いた話ゆえに、その後の懇親会では皆、できるだけ社会性を発揮しようといつになくコミュニケ−ティブな集いであった。
 
おしまい。
 
PS
自閉症の遺伝子とパーキンソン病の遺伝子は同じ接着因子の支配を受けている近縁遺伝子であるという話しもその時に伺った。
今月はじめに釧路で行われたKNSW2015 ではパーキンソン病の病理に関する報告があり、進行すると脳幹の神経はその髄鞘をどんどん失っていくという話があった。
ASDの成立にはシナプスの刈り込み つまり最適なニューロン結合だけ残って不要な接続は断ち切るという遺伝的プログラムが関与しているというのが遺伝子説の側に立つ型の意見だ。行動生理の研究者は、教育や環境が遺伝子のそうした発現をもたらすと後生的なものとして捉えようとしている。
シナプスの刈り込みがおこることで機能的な髄鞘化がすすむのが正常な発達だ。それがおこらないのがASDだとすれば、病理学的にはパーキンソンは遅発性のASDというような言い方ができるのだろうか?