こちら難聴・耳鳴り外来です!

きこえ、コミュニケーション、そして認知や学習などについて”聴覚評論家 中川雅文" が持論・自説を思うままにつづっています。ときどき脱線しますがご勘弁を(^^;

サルとヒトのさかい目 その2 記憶

おはようございます^o^ 聴覚評論家の なかがわ です。   
きょうのサルとヒトの違いは、 「記憶」  について。  
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それでは スタート(-_^)    
 
感覚記憶、短期記憶、長期記憶
記憶はその保続時間の長短から大きく3つに分類されます。
  • 感覚記憶...数秒から数十秒程度保持される記憶は感覚記憶と呼ばれます。基本的には、視覚のみあるいは聴覚のみといった一種類の感覚受容のみで記憶される情報です。言語的符号化がなされませんし、そもそもあっという間に忘れてしまいます。脳裏に焼き付くことのない記憶、それが感覚記憶です。
  • 短期記憶...数分から数時間くらい保持している記憶です。計算や暗算の時に数字を一時的に脳内にスプールするのがこれにあたります。マジックナンバー7と呼ばれるような意味のないことを覚える力。一度に7つ覚えるのがせいぜいのようです。作業するために必要な大事な能力です。パソコンのメモリみたいなところがあって頭の良いヒトにはこの容量がおおいひともいるようです。
  • 長期記憶...言語とか幼少期の記憶とか結婚式の思い出とかほとんど生涯にわたって忘れることのない記憶が長期記憶です。価値のない情報に意味やストーリーを与えることで短期記憶を長期記憶化させています。忘却しないように反復学習することで短期記憶を長期規格化するのはヒトのだいじな営みです。
記憶の変容
しかし悲しいことにどんな長期記憶も3歳以降に学習した記憶は時間とともに変容します。ヒトの記憶は、時間とともに書き替えられていくのです。
  • 平準化...他のものと同じとみなす、区別つけないようになる。
  • 強調化...極端なかたちに歪曲して記憶する。
  • 減衰...全体像がぼやけることもあれば、ディテールが消えていくことも。
  • 置換...違う記憶に置き換わる。
とにかく、われわれの記憶は、おぼえたはじから、その日から、記憶を自分の都合のいい形に変容していきます。
友人や恋人のウソに頭が来ることもありますが、それはあなたの記憶が変容したからかもしれません。日々情報が歪むうちにそのほとんどは都合のよい記憶に変容していきます。思い出はいつもよい思い出だけが残っていくのです。
この書き替えがポジティブかネガティブかどちらかになるかは、扁桃体の働きに左右されます。しかもそれは頻度や強度に依存しているだけです。悪い思い出のほとんどは恐怖を伴うエピソード記憶に限られるといっても言い過ぎではないでしょう。
 
例えば頻度が適度だと心地よい記憶となり頻度が多すぎると不快な記憶になります。頻度が少なすぎると取るも足らないどうでもいい、記憶さえされなくなってしまいます。強度が強すぎるとそれはPTSDになってしまいます。
 
*不思議なことに三つ子の魂100までと言われるようにこの時期の記憶は書き替えられることはありません。きっとこの時期の脳の記憶というのはオペレーションシステム(OS)みたいなものなのでしょうね。体罰を受けた子どもがのちにいじめや乱暴を働く子にそだつのはOSのインストールの失敗ということなんだと思います。

手続き記憶エピソード記憶、写真記憶

閑話休題、長期記憶の話題に戻します。

記憶を長期記憶に変えるためにわれわれは日々学習します。なぜなら長期記憶化には、予習、復習、日々の反復学習が必要だからです。さらに、見て、読んで、書いて、また読み上げる。目で見て、声に出して、それを聞く。視覚、聴覚、運動器を連動させないとただながめるだけの勉強をしても定着はしないのです。手順や手続きを通じて記憶は生涯忘れない情報に変わるのです。ただし、嗅覚と味覚と触覚とサプライズが伴えば、たった一回でもその経験は長期記憶となります。結婚式や大学の合格発表などはその典型ですし、事故や災難でのPTSDは悪い意味での忘れられない記憶です。こうした瞬時に一回で覚えることのできる記憶はエピソード記憶と呼ばれます。われわれは覚えるのに四苦八苦ですが、世の中には瞬時に覚えることができるうらやましい才能を持つヒトも少なくないのです。天才チンパンジーアイの子どもアユムは他のチンパンジーには真似のできないスゴ技が沢山あります。

  • コインをつまむことができます。
  • それを自販機に投入できます。
  • そうすることでジュースを買うことができることを知ってます。
  • ゲームに勝つとコインがもらえることを学び、ジュースが欲しい時にゲームでコインを手に入れます。

画面に表示された5つから7つの数字をあらかじめ見せておき、ついで、数字をマスクしたえをみせて、数字が隠されたままでも小さい順に正しく指でトレースすることができたらご褒美のジュースがもらえるというゲーム。モニタには、ほんの一瞬しか数字を見せなくてもアユムはそれを瞬時に記憶し正解を手に入れます。

http://youtu.be/gmDuzNAukmY

われわれはほとんどこのチンパンジーがやってのける記憶ゲームでアユムほどの高得点を上げることができません。アユムのみたままをそのままに瞬時に覚えるそんな記憶を写真記憶、フォトグラフィックメモリー、と呼びます。手続き、陳述、スキーマ、エピソードなど何がしかの符号化手続きを踏むことなく 「ありのまま」 に記憶するのが写真記憶の本質です。アユムは、コイン掴み (拇指対立) も出来ます。さらに数字の順番当て (写真記憶) を目の当たりにすると、これはいつの日か、”サル惑” が本当に起こるんじゃないかと思えてきます。アユムの記憶力の原動力は、ジュースという報酬(前頭葉を刺激する刺激)にあるのでしょうね。

 

 *サル惑...猿の惑星

http://kitokito.cc/2007/06/post_40.html
 

サバンと秀才
われわれヒトの中にも、チンパンジーのアユムのような写真記憶の能力を持っているヒトがいます。サバン症候群として知られる発達障がいを持つ人がそれです。電話帳を丸暗記できたり、書棚にならぶ本の位置や書名を瞬時に憶えることができます。
価値や意味が見いだせないと記憶することすらできないわれわれとは大違いです。
かれらの記憶力のヒミツは、記憶と感情を別な系として脳内で情報処理することにあるようです。感情バイアスを排除することによって、あらゆる事象をシャッターで切り取るように記憶できているようなのです。医学的には発達障がいと呼ばれていますが、かれらはけして障害ではなくニュータイプのスーパーヒューマンじゃないかと思うのです(^^) 
 
ヒトの脳は何が違う⁈
ヒトとサルの脳構造の大きな違いは、二つあります。ひとつは、大脳皮質の手指に関わる体性感覚野や運動野などの領域の大きさであり、もう一つは前頭葉の大きさです。前頭葉が大きいことがヒトのヒトたる所以であるという研究者もいるくらいです。
 
手指に関わる領域の差異は、拇指対立できるかできないかに違いが脳に形として表れたもの、トロフィックな変化の結果であると説明できます。
では前頭葉がかくも発達した理由はなんなのでしょうか?
諸説ありますがいまだ謎の中です。カルバニズムによる脳の異常とか二足歩行による頭蓋内スペースが広がったからだとか。いろんな説があります。
前頭葉と海馬/扁桃体セロトニン神経で強固な接続があります。それは、前頭葉がそもそも大脳皮質というよりは辺縁系が肥大して皮質の下から大脳皮質の前下縁からめくり出てきたみたいなものと考えることもできるでしょう。
ですから、大脳皮質の肥大がトロフィック理論で説明するように、前頭葉の発達をそうした理由からだと説明するのは少し難しいようにも思います。
 
* ギャンブルや凶暴性は前頭葉のある脳活動の一面です。PFAとよばれるこのエリアは扁桃体が暴走するとき激しく活動します。扁桃体がリズミカルに安定しているときは至福や平穏を生み出します。こうした扁桃体 の働きはしかしトップダウンではなくいつもボトムアップな感覚入力つまり外界のトレンドに支配されています。
 
サルとヒトのちがい

遺伝子は1%の差異しかありませんが、行動は本当に異なります。

例えば、ヒトは報酬があるときは恐怖を自ら抑え込むことができます。つまり学習も経験もまったく参考にせず、ギャンブルができる生き物です。もちろん報酬に対する欲求の強さやそれを求めるときのエネルギーはサルも強いことは認めます。

けれどもサルが特定の対象に特定期間だけ興奮する(発情期)のに対して、ヒトは女性だけでなく、一年を通じてそれ以外のものにも興味を持ちつづけます。ヒトはある意味1年中発情期なのかもしれません。ヒトがサルともっとも違うことは、物見高さやギャンブル性をいとわないということだけでHなく、恐怖をコントロールできる、扁桃体の活動を制御できる前頭葉(あるいはその逆で前頭葉を制御できる扁桃体?)を持っていることではなかろうかと思ったりするわけです。

 
 それでは  
ごきげんよう、さようなら(^^)/~~~