耳鳴りタイプ3のつづき 〜内服している薬剤の副作用による耳鳴〜
耳鳴を引き越す代表的な薬剤として、
のところまで前回はお話しました。
そこで今回は残りのお薬についても解説していきます。
この3つのタイプのお薬については実際にこの薬が犯人かどうかははっきりしませんが、こうした薬剤を内服している人には耳鳴りが多いことがわかっています。骨粗鬆は更年期と密接な関係があるし、甲状腺機能障害は脈のリズムにも影響が出ますし、LDLコレステロールが高く動脈硬化があれば耳鳴りするわけです。そうした病気の治療薬でなぜ耳鳴りということなのですがおそらくは耳鳴というモノが、生理的にニュートラルでないときに生じる病態であるということがその理由ではないでしょうか。少なくともスタチンは血液サラサラと同じ効果もあるので血管雑音は変化するその変化が順応するスピードより速いから検知されるのであるという説明がもっともわかりやすいかと思います。
睡眠薬や抗不安薬というのはそれぞれに作用持続時間が異なります。持続時間が短いと、薬の効果が切れたときにリバウンドがきます。つまり、「睡眠薬を飲んだはずなのに夜中に耳鳴りで目が覚めてしまった。睡眠薬の効果をかき消すくらいにひどい耳鳴だ」と薬が切れたから目が覚めたのにそれを別な理由で解釈してしまうのがその一例。あるいは抗不安薬的な作用を持つ短時間作用の睡眠薬の場合には覚醒時に不安の増悪という副作用があり日中の不安の増強と耳鳴がリンクしてしまうなんてことも可能性としてはあるでしょう。
いずれにしても薬犯人の耳鳴なのかそうでないのかは、詳細な病歴と内服の履歴を過去にわたって詳細に追跡する必要があります。お薬手帳が大事なのはそうした理由からです。
今回のタイプ3の話しはここで終わりにします。
耳鳴りタイプ3について 〜内服している薬剤の副作用による耳鳴〜
これまで難聴に伴う耳鳴、体性感覚(しびれ、痛み)にともなう耳鳴についてお話しさせていただきました。
で、今回は、少し毛並みの違う「内服している薬剤の副作用による耳鳴」について解説したいと思います。
内服している薬剤の副作用による耳鳴には、大きく2つがあります。ひとつは脈動のリズム変化を耳鳴として自覚するタイプ、もうひとつは血液の粘性の変化による血管雑音の音色の変化として自覚するタイプです。
わたしたちはだれでも無響室とか防音室のようにとても静かな空間に身を置くと耳鳴りを自覚することができます。極論を言えば、耳鳴りは誰でもある正常な生理的反応です。車のアイドリングの音みたいなもので、高速道路を走り続け、サービスエリアに到着、さあトイレに買いものにと車を降りるときうっかりエンジンを切るのを忘れた経験、みなさんいちどはあると思いますが、高速走行のうるさいエンジン音を無視するモードに入った脳は、サービスエリアでの下車の時でもそんなふうに機能しているので、アイドリングの音を無視してしまう。それが理由でアイドリングの音が聞こえなくなるのです。
おなじようにわたしたちの体も心臓はいつも不断に動いています。そして血管を血液がたゆみなく流れています。当然そこには拍動なり脈動なり血管を流れていく血液の音が存在しています。しかし、私たちの脳はそのリズムや音色がいつも通りの時には意識の下にそれをすっかり隠してしまっています。
高血圧や甲状腺疾患や更年期など疾病にともなう耳鳴というのもあるにはあるのですが、病気がゆっくり進んでいるときは変化もわずかなので拍動なり脈動なり血管を流れていく血液の音の変化には自然に順応してしまいます。血管性の雑音が意識の上にわき上がってくるのは、急速な変化と相場が決まっています。
耳鳴を引き越す代表的な薬剤としては、
などがあります。
高血圧の始まりは、のぼせや頭重といったよりひどい症状があるし、降圧剤を飲む理由もわかっているし、血圧の変動にばかり注意が向かうので耳鳴のことはあまり意識にのぼりません。高血圧のお薬を飲み始めて数ヶ月、順調に降圧に成功していると、人によっては食事療法や運動療法もおろそかになるひとが出てきます。生活の乱れからお薬のコントロールが不良になるとまた血圧が上がってきて脈動の音も大きくなります。「ざーざー」と脈打つ音がはっきり聞こえてくるようになります。ひとというのは自分勝手なもので、これは降圧のための努力を怠って生じた血管雑音にほかならないのですが、患者さんはきまって「血圧は治療しているので大丈夫。最近耳鳴を感じるのはきっと脳か耳の病気だと思う」と耳鼻科や神経内科にやってきます。高血圧の治療をはじめるときにお医者さんから、「脳心血管イベントの予防として飲み始めましょうね」とか暗示をかけられているので治療(内服)しているのに耳鳴がするのは、脳の病気に違いないと心配してしまうからにほかなりません。
同じようなことは不整脈でも起こります。不整脈は、心臓を動かす神経のネットワークにおける接続エラーから心臓全体でアンサンブルを奏でることができなくなった状態です。心臓のそれぞれのパートがばらばらに演奏している状態が不整脈。問題となる不整な動きのエリアの神経や筋肉を遮断(焼いて)して全体の調和をもたらすという根治的な治療もありますが、多くは抗不整脈薬というリズムを取るための調教薬を使うことがほとんどです。この抗不整脈薬はおよそ2年くらい継続していると、体が薬になれてきてしまい、効きが悪くなっていきます。そうした抗不整脈薬の効きの悪さはなぜか2年目くらいにあっという間にスイッチが入ったように効かなくなるケースがあります。そうした脈のリズムつまり音色の変化を耳鳴として自覚するケースがあります。こうしたケースは抗不整脈薬を変更するだけであっという間に耳鳴はきえてなくなりますから驚きです。
つづく・・・
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耳鳴りについて タイプ2のこと
今日は、タイプ2の耳鳴りについてのお話( ^)o(^ )
前回、耳鳴りは大きく6つのタイプがあること、そのうちのひとつ難聴にともなう耳鳴のことをお話しした。で今回は,2番目の慢性疼痛にともなう耳鳴についてすこしばかり講釈する。
慢性疼痛にともなう耳鳴と言われても、「慢性?」「疼痛?」とさっぱりイメージがわかないかも知れない。そこで2例ほど症例提示してみる。
- 症例1:OMさん 30歳男性
【主訴】右の耳鳴
【病歴】XX月14日頃から右耳鳴を自覚「キーン」となっている。めまいや肩こりも自覚している。近医から2週間前から、ロキソニン(痛み止め)とミオナール(筋緊張をほぐす薬)を処方されている。難聴の自覚なし。
【既往歴】2週間前に追突事故(エアバック開くほどではなかった)が、あたりどころがわるかったのかむち打ち症状があったので整形を受診している。
- 症例2:SSさん 70歳女性
【主訴】両耳鳴
【病歴】数年前から脊柱管狭窄症(腰)で整形外科に通院中。ロキソニンを飲んでいた時期もあったが、今はリリカ(中枢性の疼痛軽減薬)を飲んでいる。最近、耳鳴が徐々に強くなってきた。
痛みやしびれを脳に伝える電気的なシグナルは神経によって脳まで伝達され、脳で認知したときに痛みに変わる。痛みの部位のレベルの知覚神経は、脊髄を経由し、脳幹、そして視床、最後に皮質へとその痛みの情報を上行させている。痛みのシグナルは脳幹では背外側のエリアを通るがその部位は内耳で受容した音のシグナルを脳に伝える中継点でもある。
求心性(脳に向かう)シグナルは、それが繰りかえし、かつ持続的であるときは、そのシグナルをより早くよりより強く、つまり減衰しないで脳に届くようにする仕組みが備わっている。こうした神経の仕組み「神経可塑性」によってわれわれは学習というニューラルネットワークを強固にしている。しかし、こうした可塑性による学習強化は、不都合な形で生じることもある。つまり、慢性の痛みや鋭い痛みはより強固に上行するようになるのである。
神経繊維は、電線のリードのようにしかと絶縁されているわけではない。より早くよりより強く(減衰しない)シグナルは周囲の神経活動にも干渉してしまう。干渉された神経はそこでまたさらに反応性(感受性)を高めてしまう。
首や腰や膝の痛みは、そんな学習プログラムの影響を受けて、容易に、神経の感作を生み出してしまう。痛みという病気が徐々になるよりも痛みだけが延々と長引いてしまい、でもお医者さんからはもう問題ないといわれてしまうのは、痛みのシグナルだけを特化して脳に伝えてしまう回路を自分自身がつくってしまったからにほかならない。
痛み止めを飲んでいると、末梢からの痛みシグナルは脳に向かっているけども、脳はそれを痛みとして認識しない、すると脳は気を利かせて、その痛みのシグナルの存在をきちんと脳に伝えたいと考えて、その痛みのシグナルと脳幹という場所で音という情報に変えてしまう。
こうした痛みのシグナルが耳鳴に変わるタイプを体性耳鳴とよぶ。
首の痛みなら2週間、腰なら1〜2年、膝なら2年以降というふうにのうからの距離で発症するタイミングが変わる。痛くてもしっかりリハビリして動かしているひとはなりにくい。
体性耳鳴の治療は、運動リハビリがいちばんなのだ。
もちろん医学的なアアプローチもあるが、そうした治療(神経ブロックや経皮的針刺激法(GSS))は、その治療効果はいわれているが、まだ十分なエビデンスが得られいるほどにはいたっていない。
耳鳴りについて タイプ1のこと
耳鳴りは、大きく6つのタイプがある。
である。
難聴に伴う耳鳴をタイプ1耳鳴と呼ぶことにする。
タイプ1耳鳴には、急性と慢性のタイプがある。
急性のタイプの耳鳴は、神経の急激なダメジによる神経の悲鳴と言える。120dB以上の強大音や衝撃音にたとい数秒間くらいさらされるだけで、その後数日は耳鳴に悩むことになる。120dB以上の数秒くらいとは書いたが、95dB以上なら47分くらいでそんな状況になってしまう。一般的なイヤホンでの音楽鑑賞の音量は、電車内とかだとふつうに95dBを超えてしまう。なぜかというと、通常のわれわれの生活環境のノイズが40〜60dB、電車内は70〜90dBくらいで変動している。イヤホンをすればそれだけで耳栓効果として10dBくらいは外部の音を遮断してくれるけども、周囲のノイズを気にしないで音楽を楽しもうと思ったら、ノイズよりも20dBは音量を大きくする必要がある。つまり電車内でイヤホン音楽鑑賞しているときに、車内アナウンスが聞き取れないあるいは聞き取りにくい状態になったとすればそのときあなたの耳は95dB以上にさらされていることになる。片道で24分の距離で音楽を聴いていたとすれば、それは、耳鳴を引き起こす状況にあると言える。大きな音にさらされてよわった内耳の神経細胞が耳鳴を引き越している。自然治癒するためには、48時間以上耳を休ませる必要がある。簡単な休ませ方は、耳栓を点けっぱなしにすること。慢性的にやかましい音環境に身を置いていると、いずれは耳鳴が難聴に変化してしまう。
慢性の難聴にともなう耳鳴タイプは、聞こえないことにに対する脳の代償として説明されることが多い。耳のはたらきの一部が壊れて、脳に情報が届かないそんなときに脳が入ってこない情報を補うように脳で耳鳴りをつくってしまっているというタイプだ。アンテナの壊れたラジオとか手例からは、シャーというノイズとか砂嵐のような画面のみだれが観察されるがそれと同じメカニズムといえる。慢性の難聴にともなう耳鳴タイプは、補聴器で音を補ってやるのがまぐ基本である。だけども補聴器で補えるのはことばの帯域の音色だけ。すごく低い音やとても高い音といった音声に関係ない帯域の難聴をともなう耳鳴の方には、波の音などの環境音ノイズとか高調波成分が多いと言われる弦楽クラシックなどを聴かせるのが安くて手っ取り早い耳鳴軽減対策となる。されどいつもそうした音楽やノイズを持ち歩くわけにも行かないというひとが耳載せタイプの補聴器のような形をしたサウンドジェネレーターというもので耳鳴をキャンセリングすることになる。サウンドジェネレーターは医療器械で医師の処方のもとにその人のきこえの状態にあわせて使用することになる。環境音やクラシック音楽あるいはサウンドジェネレーターというものをつかった耳鳴治療は、TRT療法と呼ばれていて世間でとてもよく知られている。だけどこのTR療法の期待できるのはタイプ1くらいじゃないかとぼくは考えている。
つづく
耳五部作(*^_^*)
気がつけばもう5冊も耳ネタを披露しています(-_-;)
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